岩壷教授の経済教室 第15回
ビットコイン価格が2017年12月につけた史上最高値を更新し、今回の急騰はバブルの再来なのかが注目されています。それに伴ってSNS上では最近、ビットコインの4年周期アノマリーが話題になっています(川崎ドルえもんのTwitterより)。前々回の高値はMt.Gox事件の直前の2013年11月で、前回の高値はその4年後の2017年12月でした。ビットコインには半減期というものがあり、マイニング報酬が約4年ごとに半減していきます。前回の半減期は2020年5月に終えており、半減期の周期とビットコインが高値をつける周期が完全に一致しているわけではありませんが、次の高値は今年の年末ではなく来年の年末で、それまでは上昇トレンドが継続するのではないかというのが4年周期アノマリーに基づいた予想です。
しかし、このように生産コストと価格の関係に着目してバブルを予見するというアイデアは学問の世界にもあります。今回は、ビットコイン市場の好況(Bull)と不況(Bear)の予測に関するXiong, Liu and Zhao (2020)の論文を紹介しましょう。
ビットコインの本源的価値(intrinsic value)が生産コストと使用価値から成ると仮定します。生産コストはマイニングのための電気代、マイニングマシンの管理費、マイニング設備の購入費を含みますが、最も費用がかかるのがマイニングにかかる電気代ですので、電気代を生産コストの代理変数とみなします。ビットコイン価格を電気代で除した値を価格電気代比率(PECR)とすると、価格電気代比率が1を超えて大きくなるほど価格が過大評価されており、1を大きく下回るならば価格が過小評価されていることになります。図1ではビットコイン価格がおおむね価格電気代比率(PECR)と連動しており、2018年初頭に両者がピークをつけていること、そして2017年初から2018年央まで長きにわたって価格電気代比率が1を大きく上回っており、価格が過大評価されていたことが示されています。
また、ビットコインの本源的価値の要素である使用価値の代理変数としては、取引高よりも(重複を控除した)取引口座数が適しています。図2はビットコイン価格と取引口座数の推移を表したものですが、図1と同様に、ビットコイン価格のピークと取引口座数のピークが一致しており、おおよそ連動しています。グレンジャー因果性分析という時系列分析でも、取引口座数がビットコイン価格の予測に十分な情報を含んでいることが示されています。
さらに、興味深いのは、対数周期的べき乗則モデルに当てはめると、次の高値が2020年11月であると予見している点です。この論文が書かれたのが2020年7月であり、6月の戻り高値から下落している時期でした。2020年5月に半減期を迎えて、年内に高値を付ける確率がかなり高まっていると結論づけています。このような予測が多くの投資家に受け入れられるようになると、逆に実現しなくなるのがマーケットの常ですが、投資家の関心を集めそうな予測手法です。
図1 ビットコイン価格と価格電気代比率(PECR)
図2 ビットコイン価格と取引口座数(n)
参考文献
J. Xiong, Q. Liu, L. Zhao (2020), “A New Method to Verify Bitcoin Bubbles: Based on the Production Cost”, North American Journal of Economics and Finance, 101095.
岩壷健太郎 (いわつぼけんたろう)
岩壷健太郎
神戸大学大学院経済学研究科 教授
早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本金融学会常任理事を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。主要著書として、『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』など。
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